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2020年10月 5日 (月)

宇賀庄について

 建武二年三月一八日後醍醐天皇は宇賀庄地頭職を鰐淵寺根本薬師堂(南院)に寄進した(鰐淵寺文書)。後の鰐淵寺僧頼源文書目録には「一統の頃、京都で秘計を致して給わった」と記しているが、仁多郡三処郷(横田庄と同様に、北条時輔の母である尼妙音の死後、地頭職は幕府が管理していた)と違い、その後、宇賀庄に関する文書は残っていない。『大日本史料』では宇賀庄を楯縫郡に比定しているが、楯縫郡にあるのは近世の宇賀村であり、初歩的間違いである。近刊の『鰐淵寺文書』(この本にも初歩的間違いがあることは前述のとおり)には何の注記もなかったが、『南北朝遺文』にはやはり楯縫郡との注記がある。中世の宇賀郷は出東郡であり楯縫郡ではない。宇賀郷地頭職が寄進された場合、後にそれを「宇賀庄」と呼ぶことはあるが、宇賀庄地頭職と呼ぶことはない。皇室領塩冶庄とは塩冶郷地頭職が寄進されたものである。常に感じるのは「何も考えない」からこんな初歩的間違いをするというものである。
 宇賀庄は攝籙渡庄の内、法成寺領であるが一四世紀初めと半ばの目録では宇賀庄については領家が記されていない。その意味は不明だが、平等院領富田庄でみたように、領家については氏長者が交替する度に変更される可能性が高い。文永八年の宇賀庄地頭「因幡左衛門大夫」とは六波羅評定衆で、備前・備後守護であった長井泰重である。泰重の子孫は幕府滅亡後も生きのびているが、一部は所領を没収されており、宇賀庄地頭職は建武政権によって没収されたことになる。三月一八日という日が後醍醐の皇女が誕生した日であることは前に述べた。
 宇賀庄が注目されるのは禅僧(この時点では臨済宗と曹洞宗の区別は明確ではない)孤峰覚明が元亨二年に招かれ後の雲樹寺の前身となる施設が牧新左衛門入道善興の支援を受けて開基されたことである。以前は牧氏=御内人とし、この時点で得宗領となっていたと考えたが、依然として長井氏領であったとの考えに修正した。長井氏は公家出身の大江広元の子孫であることもあって近衛氏領の管理にもあたっていた。その後、覚明が後醍醐天皇から国済国師、後嵯峨天皇から三光国師の称号を与えられたことは良く知られている。
 ここで注目するのは覚明関係史料(雲樹寺蔵)に、覚明は無欲の人で、本家(当時の宇賀庄を支配する摂関家氏長者)より雲樹近辺福頼庄を一円に寄進するとの申し出があったが、末世の余殃(わざわい)に鑑み、所領と賞ともに本家に固辞したことが記されている。福頼庄の所在が不明でもあったのでこの史料に着目したが、出東郡内の宍道湖西岸南部に所在したことを確認できた。宇賀庄は佐陀社に次ぐ出雲国第二の規模を持つ庄園であるが、宇賀庄が渡庄であるゆえに、近衛家領福頼庄の寄進を申し出たのであろう。この前後の時期に近衛家関係者で氏長者となった人物が問題となる。となると、元徳二年一月と建武元年二月に氏長者となった近衛経忠となる。当時の近衛家では家平の孫である経忠と基嗣が氏長者をめぐって対立していたが、経忠は後醍醐天皇の信任を受けて氏長者となった。最初は一族内の問題により、後者は吉野へ遷幸した後醍醐天皇の後を追って京都を出奔したために長者の地位を失った。
 後醍醐の信任を得ていた経忠は近衛家領福頼庄を寄進しようとしたが、覚明が固辞した。固辞しなかった場合でも、経忠が京都から出奔し氏長者とともに近衛家当主の座を失ったため、寄進が無効になった可能性が大きい。いずれにせよ、近世の記録に記された近衛氏による福頼庄寄進の申し出は事実であった。
 嘉慶二年九月二六日に山名氏之(幸)が宇賀庄内の所領を雲樹寺に寄進しており、氏之が宇賀庄地頭であったことがわかる。康暦の政変で京極氏に代わって出雲守護になった際に京極氏領を得た可能性もあるが、南北朝動乱の初期以来、伯耆国から出雲国に攻め込み南朝方を討伐する中で山名時氏が室町幕府から与えられた可能性が大きい。明徳の乱で山名氏之は満幸ではなく惣領時煕と行動を共にし、乱後は伯耆国守護に補任されたが、宇賀庄地頭職は一五世紀後半の一時期、嘉吉の乱での追討から復してきた赤松政則に与えられたり、幕府御料所となり奉公衆杉原氏が管理していたこともあった。一方、宇賀郷地頭であった遠江国御家人西郷氏が南北朝期以降も宇賀郷地頭であり、戦国期まで生きのびたことはすでに述べたとおりである。

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