koewokiku(HPへ)

« 東京都下のコロナ禍データ | トップページ | 東京のデータが変? »

2020年7月25日 (土)

鉄穴流しの禁止と解禁

 『鉄山旧記』に慶長一五年(一六一〇)「御入部、鉄穴御停止」とある事について、関連史料はないかと思っていたら、『平田町誌』で『愚考記』にも同様の記述があるとして引用されていた。
 「堀尾公松江へ城移しの後、仁多飯石大原の三郡より鉄穴流しを願ふ事凡十八度、更免許なく、(略)然に京極若狭守領所の時免許と聞伝ふとなり」と。そこで原典を確認すると、県立図書館にはそのコピーが所蔵されていたが、所蔵者森広家の地元の出雲市立図書館は検索してもヒットしなかった。森広家には天明の飢饉時の一揆関係史料が所蔵されているが、『出雲市大津町史』をみても、「愚考記」にはまったく言及されていない。天正元年の洪水については同家所蔵の「森広譜録」(元本と新本)が利用されているが、『愚考記』が県立図書館にどのような経緯でいつ入ったのか不明である。森広家所蔵史料のいくつかの謄写本がある東大史料編纂所でもヒットしない。
 その内容に入る前に、「御入部」の意味を確認したところ、堀尾吉晴の子で初代松江藩主である忠氏が慶長九年八月に二七才で死亡したことにより、六才の子忠晴が藩主となったが、実際は祖父吉晴が政務を行っており、忠晴の親政は慶長一六年に祖父吉晴が死亡した後である。同年に松江城は落成し、富田城からの移動は完了していた。その前年に吉晴の「最期の」判断で鉄穴流しが禁止されたことになる。理由は、鉄穴流しの砂が宍道湖に堆積し、要害としての松江城の機能が発揮できなくなるからとされる。当然、その前提として斐伊川がすでに東流していたことになるが、一方、寛永一三年に京極忠高が鉄穴流しの再開を認めた理由も問題となる。鉄穴師からは何度も禁止の解除を求める願いが出されていたが、寛永一三年に至り何が変化し、忠高が解除したのだろうか。
 『愚考記』にはもう少し具体的に記されているが、『平田町誌』の記述は原史料を書き下したものではなく、要約したものであった。『愚考記』は元禄六年頃に成立したと思われるが、その後天明四年に加筆されており、鉄穴流しに関する部分は後者である可能性が高い。
 堀尾忠氏に対して三郡から願書が出されたが、祖父吉晴が死亡した時点で忠氏は一二才であり、なお藩の重臣達が判断していた。そこで三郡は二〇代となった忠氏の判断を仰ぐべく願いを松江藩大目付に提出し、忠氏自身が判断することを求めた。これが堀尾氏に対する最後の=一八度目の願書であったが、忠氏は重臣達の説明に納得し、やはり不許可であった。その中で重臣達は城が富田なら禁止にはしなかったとして、松江だからこその禁止と説明している。京極氏の治世については免許されたことのみ記し、『鉄山旧記』のように京極氏のもとでの三度目の正直であったことは記されていない。
 堀尾氏が慶長一五年に禁止した理由と京極氏が寛永一三年に許可した理由は何であろうか。慶長一四年には斐伊川下流域で洪水が発生しており、松江城下町への影響のみが禁止の理由ではなかろう。堀尾氏が藩主であれば禁止が解除されなかったとも考えにくく、禁止とともに課題克服の対策に着手していたはずであり、京極氏が解禁したのも堀尾氏以来の対策の成果を踏まえたものであろう。要害としての松江城の問題については、豊臣秀頼の滅亡により、軍事的緊張は緩和していたと思われる。寛永一三年とは前年に大名の参勤交代を制度化した新たな武家諸法度も出され、度重なる鎖国令により幕府の体制も完成に近づいていた。
 以上のように、当初は軍事的要因が主であったかもしれないが、一方で斐伊川下流域での水害対策も禁止の原因であり、次第に水害対策が禁止の主な要因となっていた。京極氏が鉄穴流しを解禁したのは水害対策の整備が進んだとの判断であり、なお対策を進める予定であったろうが、京極氏は断絶し、藩主は松平氏に交代した。松平氏は京極氏の対策を継承したであろうが、鉄穴流し再開による斐伊川河床の天井化のペースは想像以上であり、その後も洪水が多発した。
 『愚考記』には大津町の移転(旧と新)の問題や、天正元年の洪水時の森広家が、新町下の斐伊川に近い場所(石塚村かけど)にあったことも記されている。この関連部分は元禄年間の成立であろう。

« 東京都下のコロナ禍データ | トップページ | 東京のデータが変? »

中世史」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 東京都下のコロナ禍データ | トップページ | 東京のデータが変? »

2021年6月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      
無料ブログはココログ