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2020年7月20日 (月)

根拠ある説を

 人名比定について述べたが、それ以外でも根拠なき説が目立つので、一日も早く修正してもらいたいので述べる.まだそんな説を信じている人があったとはというのが実感である。
 『「たたら製鉄」の活率過程と鐵の流通』(島根県古代文化センター)所収の論考の中で、二人が年未詳二月五日尼子氏奉行人連署米等作留状について言及していた。一人は旧説である永禄四~五年とし、もう一人は永禄初年としていた。本ブログでは永禄一から二年に比定したが、三年についてもその可能性はある。ただ、四年となると、二月一三日尼子氏奉行人連署書状の立原幸隆の花押がすでにⅡ型に移行しており、八日の間に花押を変更する契機となるような事件は起こっていない。ということで四年~五年説は根拠無き説である。
 四~五年説の根拠となったのは出雲国と石見国の間の緊張関係であるが、永禄二年七月の尼子晴久による小笠原氏支援のための出兵が失敗して以降は、銀山と山吹城周辺こそ尼子方が死守していたが、その他の地域は銀山の外堀を埋めるように次々と毛利方の支配下に入り、尼子氏と協力していた温泉氏とその関係者も出雲国に逃れる事態となっていた。永禄三年五月二四日尼子晴久書下、義久書下と晴久袖判奉行人連署奉書(波根家文書)により、永禄二年に邑智郡飯山に在番していた波根五郎左衛門尉が欠落したため、一族の駿河守と四郎左衛門尉に五郎左衛門尉跡の所領が与えられている。六月二〇日には、これから山吹城番として出張する鞍掛豊勝が晴久の證判を得た上で日御崎社に神門郡久留原村内の所領を寄進している。以上のように、永禄三年二月三日に比定して問題はない。前回は「如法度」に注目して、永禄元年六月の尼子氏による杵築法度の改定との関係から述べた。その場合は永禄元年二月三日ではあり得ず、永禄二年か三年となる。
 永禄一二年閏五月から六月にかけて、木次市庭中と平田目代等は杵築の坪内氏らに書状を出して、市の縄張りをめぐる対立の調整を図っている。これに関して三氏が述べられた説はいずれも大社領である「うと」(千家方)を平田の縄張りとする致命的な誤りを犯していることはすでに述べた通りである。この問題に注目するのは、なおこの時点で斐伊川西流路が存在したこととの関連である。天正元年に斐伊川で洪水が発生したこととすでに一定規模の東流路が存在したのは確実である。前回述べた慶長七年高岡村検地帳により、この時点でも西流路が消滅するような洪水が発生していないことも確認した。
 一方、寛永一〇年、一三年、一六年と諸説あるが、この洪水時点ですでに西流路が消滅していたのは確実である。「慶長日本図」(ただし成立は寛永年間とされる)では、斐伊川とその東側の支流と神戸川しか描かれていないが、それは西岸には斐伊川とつながるような川がなかったためである。目的に必要な情報のみ記される。「寛永一〇年出雲国絵図」でも同様だが、北山山地沿いを流れる川も描かれているが、斐伊川とはつながっていない。なお国絵図の各村の位置は極めて不正確であり(池田文庫蔵「寛永一〇年図」、国立公文書館蔵「正保二年図」ではそれぞれ北島・千家・富村の位置が混乱している)、郡の堺に関心があったと思われる(ただし、建前と実際で所属する郡が異なる村が多数あった)。
 現時点では慶長一四年の北山山地周辺の豪雨に伴う洪水・土石流で、斐伊川西流路が縮小し、その後これをせきとめ、東流路を整備することが行われたと考える。関ヶ原の合戦で出雲国に入部した堀尾氏は城下町松江の整備とともに、検地による領内の実態把握を行っていたが、このまま鉄穴流しを続けては城下町に洪水が起こるとの判断から鉄穴流しを禁止した。従来、この問題と斐伊川東流の関係が考えられていなかったのが不可思議である。寛永一三年に新領主京極氏に対する三ヶ年に及ぶ鉄穴師の訴えを受けて禁止が解除されたのは、堀尾氏と京極氏による斐伊川東流路の整備が行われた結果であった。ただし、予想を越えてその後も斐伊川沿いの洪水は多発した。慶長一五年の鉄穴流し禁止の背景には、それ以前に中国山地沿いでの鉄穴流しが大々的に展開されたいたことが前提条件となる。根拠に基づく柔軟な見直しが必要である。斐伊川東流問題がこれまで未解決であったのは、根拠に基づき論じることが主流とならなかったからである。 

 

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